やさしく言い換えると、事実まで変わってしまうことがあります。この回では、ハルさんが正確さを保ったまま、硬い説明を読みやすくします。
この回で作るもの
事実を落とさずやさしくした説明文
調べた内容をそのまま写した硬い文を、読みやすい文に直します。あわせて「言い換えで失われやすい情報」の見分け方を持ち帰ります。
今回の例
ハルさんの説明が、調べた資料のままになっている
ハルさんは、記事の中で和菓子の種類について少し説明したいと思いました。調べた内容をまとめたところ、自分の記事の他の部分と文体が合いません。かたい言葉が並んで、そこだけ教科書のようになっています。
- 書いた説明文
- 「どら焼きは、小麦粉、卵、砂糖を主原料とする生地を円形に焼成し、二枚の間に餡を挟んだ和菓子である。生地に蜂蜜または味醂を添加することにより、しっとりとした食感が付与される。」
- 確かめたこと
- 材料と作り方は、複数の資料で共通していた内容。名前の由来は諸説あるため今回は書かない
- 止まっている理由
- やわらかくすると、正確さが失われそうで手が付けられない
やさしくすると、消えやすいものがある
言い換えは便利ですが、油断すると事実が薄まります。特に消えやすいのは次の3つです。
- 数量と範囲 — 「二枚の間に」が「間に」になると、枚数が消えます
- 条件 — 「蜂蜜または味醂を添加すると」が「入れると」になると、何を入れるかが消えます
- 限定 — 「主原料とする」が「使った」になると、他にも材料がある含みが消えます
逆に、消えても困らないものもあります。「焼成する」は「焼く」で足りますし、「付与される」は「なります」で通じます。専門的に見える言葉の多くは、意味を変えずに置き換えられます。
「やさしく」は相手によって変わります。この回では「中学生が読んで分かる」を基準にします。基準を決めずに頼むと、どこまで崩すかが毎回変わってしまいます。
AIに任せる部分と自分で見る部分
AIに頼みやすい
- 硬い言葉を言い換える
- 一文を短く分ける
- 言い換え前後で消えた情報を挙げる
- 基準を変えた案を並べる
自分で見る
- 事実が変わっていないか
- どこまで崩すかの判断
- 自分の記事の他の部分と合っているか
- 調べた資料と照らし合わせる
進め方
- 硬い説明文を用意する
- 基準(中学生が読んで分かる)を伝えて言い換えてもらう
- 言い換えで消えた情報を挙げてもらう
- 消えて困る情報を戻す
- 自分の記事に並べて、文体が合うか確かめる
そのまま使える依頼文
1. 基準を決めて言い換える
次の説明文を、中学生が読んで分かる言葉に直してください。
条件:
・材料の種類と枚数は変えないでください
・「または」「主な」などの条件を示す言葉は残してください
・一文を短くしてください
・専門用語を使う場合は、その直後に言い換えを付けてください
説明文:
どら焼きは、小麦粉、卵、砂糖を主原料とする生地を円形に焼成し、
二枚の間に餡を挟んだ和菓子である。
生地に蜂蜜または味醂を添加することにより、しっとりとした食感が付与される。
出力例
「どら焼きは、小麦粉、卵、砂糖を主な材料にした生地を、丸く焼いて作ります。焼いた生地を2枚使い、その間にあんを挟んだ和菓子です。生地には、はちみつかみりんを入れることがあります。入れると、しっとりした食感になります。」
「主原料」は「主な材料」、「焼成」は「焼いて」に変えました。2枚という枚数と、「はちみつかみりん」という選択の条件は残しています。
2. 消えた情報を挙げてもらう
言い換える前と後を比べて、
情報が失われた箇所があれば挙げてください。
失われていなければ「失われた情報なし」と書いてください。
言い回しが変わっただけの箇所は挙げなくて構いません。
前: (元の説明文)
後: (言い換えた説明文)
出力例
失われた情報が1つあります。
- 「添加することにより」→「入れることがあります」
元の文では、入れれば必ずしっとりするという因果関係を示していました。言い換えた文では「入れることがあります」となり、入れる場合と入れない場合がある、という話に変わっています。作り方の説明としては、意味が少しずれます
その他の箇所は、言い回しの変更だけで情報は保たれています。2枚という枚数、はちみつとみりんの選択、主な材料という限定は残っています。
3. 消えた情報を戻す
指摘してもらった「入れることがあります」の部分を直してください。
・元の因果関係(入れるとしっとりする)を残す
・でも、中学生が読んで分かる言葉のままにする
・「〜することにより」のような硬い言い方は使わない
その部分だけ、3つの言い方を出してください。
出力例
- 「生地にはちみつかみりんを入れると、しっとりした食感になります。」
- 「はちみつやみりんを生地に加えるのは、しっとりさせるためです。」
- 「しっとりした食感にするために、生地にはちみつかみりんを入れます。」
3つとも因果関係を保っています。1は原因から、2は理由の説明、3は結果からの言い方です。前後の文の流れに合うものを選んでください。
4. 自分の記事の文体に合わせる
この説明文を、私の記事の他の部分と並べます。
記事の他の部分は、次のような書き方です。
「平日の午後、空いている店で栗どら焼きを買いました。
皮はふんわり、栗は大きめで甘露煮のような味です。」
説明文だけ調子が違わないよう、文体をそろえてください。
説明の内容と正確さは変えないでください。
出力例
「どら焼きは、小麦粉と卵と砂糖を主な材料にした生地を、丸く焼いて作ります。それを2枚使って、間にあんを挟みます。生地にはちみつかみりんを入れると、しっとりした食感になります。」
変えた点は3つです。「〜和菓子です」という定義の言い方をやめて動作の説明にしました。読点を減らし、一文を短くしました。「作ります」「挟みます」と、記事本文と同じ丁寧語の調子にそろえています。
5. 説明の量を減らす
この記事は、私が食べた感想が中心です。
どら焼きの説明は、そこまで詳しくなくても構いません。
説明文を2文まで縮めてください。
残す情報と、外す情報を分けて教えてください。
外した情報が、読者にとって必要かどうかも書いてください。
出力例
2文にした案
「どら焼きは、小麦粉と卵と砂糖で作った生地を丸く焼き、2枚の間にあんを挟んだお菓子です。生地にはちみつかみりんを入れると、しっとりした食感になります。」
残した情報: 材料、形、枚数、あんを挟むこと、しっとりする理由
外した情報: 「主な」材料という限定
外した「主な」は、他にも材料があることを示す言葉です。感想が中心の記事であれば、なくても読者が誤解する心配は小さいと思われます。ただし、材料の話を深く扱う記事では残したほうが正確です。
出力をレビューする
- 数量、条件、限定を示す言葉が消えていないか
- 調べた資料と照らして、内容が変わっていないか
- 専門用語を残す場合、直後に言い換えがあるか
- 記事の他の部分と文体が合っているか
- 説明の量が、記事の中心とつり合っているか
返事が使いにくかったときの直し方
「どら焼きは、ふわふわの生地であんこを挟んだ、みんな大好きな和菓子です。昔から日本人に親しまれてきた定番のおやつで、子どもから大人まで幅広い世代に愛されています。」
読みやすくはなりましたが、説明として成り立っていません。材料も枚数も焼き方も消えて、代わりに「みんな大好き」「昔から親しまれてきた」という、ハルさんが確かめていない話が入りました。やさしくした結果、内容が別のものに置き換わっています。
やさしくする過程で、説明の中身が消えています。
・材料(小麦粉、卵、砂糖)、枚数(2枚)、焼き方(丸く焼く)を必ず残してください
・「みんな大好き」「昔から親しまれてきた」は、私が確かめていない話です。入れないでください
・言葉をやさしくするだけで、内容は変えないでください
元の説明文の情報を全部残したまま、もう一度お願いします。
「どら焼きは、小麦粉と卵と砂糖を主な材料にした生地を、丸く焼いて作ります。それを2枚使って、間にあんを挟みます。生地にはちみつかみりんを入れると、しっとりした食感になります。」
「やさしく」とだけ頼むと、内容ごと入れ替わることがあります。残す情報を名指しで挙げると、言葉だけが変わります。
小さな練習
調べたことをそのまま書き写した文章を、1つ用意してください。ない場合は、身近なものの作り方や仕組みを2文で書いてみます。
その文で依頼文1を送り、やさしく言い換えてもらいます。次に依頼文2で、消えた情報を挙げてもらってください。1つでも「これは戻したい」と判断できたら、この回は完了です。
次へ進む目安
言い換えたあとに「何か消えていないか」と確かめられたら十分です。ここで使った「消えた情報を挙げてもらう」やり方は、第18回のリライトでも同じように使えます。
次は「読む順番を整える」へ進みます。1文ずつではなく、文の並びを扱います。