相手がいる文章は、送ったあとに直せません。この回では、ハルさんが受け取ったDMに、約束を足さずに返信します。
この回で作るもの
3つのトーンから選んだ返信文
丁寧・ふつう・親しみの3案を作り、相手との距離に合うものを選びます。あわせて、AIが足しがちな「していない約束」の見つけ方を持ち帰ります。
今回の例
ハルさんが、DMの返信で3日迷っている
ハルさんのブログを見た和菓子店の方から、DMが届きました。うれしい内容なのですが、返信の下書きが硬すぎたり砕けすぎたりして、送れないまま3日たちました。
- 届いたDMの文面
- 「はじめまして。当店の栗どら焼きをご紹介いただき、ありがとうございました。記事を拝見しました。もしよろしければ、来月から始める新しい商品も見ていただけたらうれしいです。お時間のあるときにお立ち寄りください。」
- ハルさんの状況
- うれしいが、来月行けるかは分からない。記事にするとも約束できない。ただ、そっけない返事にはしたくない
- 書いた下書き
- 「この度はご丁寧にご連絡を賜り、誠にありがとうございます。ぜひ来月お伺いさせていただき、記事にてご紹介させていただきます。」
- 止まっている理由
- 下書きが硬いうえに、行くとも書くとも約束してしまっている
返信で気をつけるのは、トーンより約束
ハルさんの下書きの問題は、硬さだけではありません。「ぜひ来月お伺いします」「記事にてご紹介します」と、2つの約束をしています。どちらも、まだ決めていないことです。
相手がいる文章では、うっかり足した一言が約束になります。AIに任せると、相手を喜ばせようとして、この種の言葉が自然に入ります。トーンを整えるより先に、約束していないことを確かめる必要があります。
- 行く約束 — 「伺います」「お邪魔します」「必ず行きます」
- 書く約束 — 「記事にします」「紹介します」「発信します」
- 時期の約束 — 「来月」「近いうちに」「すぐに」
- 評価の約束 — 「楽しみにしています」も、期待に応える前提になることがあります
約束を避けるのは、冷たくすることではありません。「行けたら伺います」「拝見できたら」と、実際にできる範囲で書けば、相手にも誠実です。できない約束をして果たせないほうが、関係を傷つけます。
AIに任せる部分と自分で見る部分
AIに頼みやすい
- トーン違いの返信案を出す
- 約束にあたる表現を指摘する
- 断定を避けた言い方に直す
- 長さを調整する
自分で見る
- 約束できる範囲の判断
- 相手との距離に合うトーンの選択
- 送る前の読み返し
- 実際に送信する
進め方
- 相手のDMと、自分が約束できる範囲を書き出す
- トーン違いの案を3つ出してもらう
- 約束にあたる表現がないか点検してもらう
- 1案選んで、語尾を自分で直す
- 送る前に声に出して読む
そのまま使える依頼文
1. トーン違いで3案作る
お店の方から届いたDMに返信します。
丁寧・ふつう・親しみの3つのトーンで案を作ってください。
【届いたDM】
はじめまして。当店の栗どら焼きをご紹介いただき、ありがとうございました。
記事を拝見しました。もしよろしければ、来月から始める新しい商品も
見ていただけたらうれしいです。お時間のあるときにお立ち寄りください。
【私が約束できないこと】
・来月行けるかは分からない
・記事にするかどうかも決めていない
私が決めていない約束は書かないでください。
出力例
丁寧
「ご連絡をいただき、ありがとうございます。栗どら焼きは、皮のふんわりした感じとあんの控えめな甘さが印象に残っております。新しい商品のお話も、うかがえてうれしく思います。お店に立ち寄れる機会がありましたら、拝見できればと思います。」
ふつう
「ご連絡ありがとうございます。栗どら焼き、おいしくいただきました。皮のふんわりした感じとあんの甘さ控えめなところが好きです。新しい商品のお話もありがとうございます。近くに寄ることがあれば、のぞいてみたいと思います。」
親しみ
「ご連絡うれしいです、ありがとうございます。栗どら焼き、皮がふんわりしていて、あんの甘さも控えめで好きな味でした。新しい商品も気になります。お店の近くに行く機会があれば、のぞかせてください。」
3案とも、来月行くこと、記事にすることは書いていません。
2. 約束にあたる表現を点検する
次の返信文に、私が決めていない約束が入っていないか点検してください。
・行く約束
・記事に書く約束
・時期の約束
・その他、相手が期待して待つことになる表現
入っていなければ「約束なし」と書いてください。
書き直しはまだしないでください。
返信文:
この度はご丁寧にご連絡を賜り、誠にありがとうございます。
ぜひ来月お伺いさせていただき、記事にてご紹介させていただきます。
出力例
約束が3つ入っています。
- 「ぜひ来月お伺いさせていただき」 — 行く約束と、来月という時期の約束が同時に入っています。「ぜひ」が付くことで、意思が強く伝わります
- 「記事にてご紹介させていただきます」 — 記事にする約束です。相手は掲載を前提に待つことになります
- 「賜り」「させていただき」の重なり — 約束ではありませんが、敬語が二重になっており、距離が遠く感じられます
相手は個人のブログを見て連絡してきた方です。ここまで硬い言い方だと、かえって身構えさせる可能性があります。
3. 断らずに、約束を外す
指摘してもらった3つの約束を外したいです。
ただ、そっけない返事にはしたくありません。
約束を外しつつ、うれしい気持ちが伝わる言い方を教えてください。
それぞれ、外す前と後を並べて見せてください。
出力例
| 外す前 | 外したあと |
|---|---|
| ぜひ来月お伺いさせていただき | お店に立ち寄れる機会がありましたら |
| 記事にてご紹介させていただきます | 拝見できればと思います |
| (気持ちの言及なし) | 栗どら焼きは、皮のふんわりした感じが印象に残っております |
約束を外すと文が短くなるので、そのぶん食べた感想を1文足しています。感想は事実なので約束になりません。かえって、相手には具体的に伝わります。
4. 相手との距離からトーンを選ぶ
3案のうち、どれを選ぶか迷っています。
判断の材料をください。
【相手】
・和菓子店の方。面識はない
・DMの文面は丁寧だが、堅苦しくはない
・「うれしいです」という言葉を使っている
どれが正解かは決めなくて構いません。
選ぶときに見るべき点を教えてください。
出力例
見るべき点
- 相手の文面の硬さに合わせる — 相手は「うれしいです」「お立ち寄りください」と、丁寧だが柔らかい言い方です。こちらだけ「賜り」「させていただき」と硬くすると、距離が開きます
- 今後もやりとりが続くか — 続く可能性があるなら、最初から硬すぎないほうが次が書きやすくなります
- 公開の場か個人の場か — DMは1対1のやりとりです。公開コメントより、少し砕けても不自然になりません
この3点で見ると、「ふつう」の案が相手の文面と釣り合います。「丁寧」は相手より一段硬く、「親しみ」は面識のない相手にはやや近い印象です。
5. 返信の型として残す
今回のやりとりを、次から使える返信の型にしてください。
私が受け取るのは、店や施設の方からの連絡が多いです。
毎回書き換えるのは、相手のDMと約束できない範囲の2か所だけにしてください。
点検の条件も型に入れてください。
出力例
次のDMに返信します。
丁寧・ふつう・親しみの3つのトーンで案を作ってください。
【届いたDM】
(そのまま貼る)
【私が約束できないこと】
(行く、書く、時期など、決めていないことを書く)
【条件】
・私が決めていない約束を書かないでください
・「必ず」「ぜひ」など、意思を強める言葉を使わないでください
・敬語を二重にしないでください
・実際に食べた、見たという事実は入れてください
作ったあと、3案それぞれに約束が残っていないか点検してください。
最後の点検を型に入れておくと、案を作った直後にそのまま確認できます。
出力をレビューする
- 行く、書く、時期の約束が入っていないか
- 相手の文面の硬さと釣り合っているか
- 敬語が二重になっていないか
- 自分が実際に感じたことが入っているか
- 声に出して読んで、自分の言い方に近いか
返事が使いにくかったときの直し方
「素敵なご連絡をありがとうございます!栗どら焼き、本当に美味しかったです。新商品もとても楽しみにしております。ぜひ発売されたら真っ先にお伺いして、ブログでもたっぷりご紹介させてください!今から待ち遠しいです。」
感じは良いのですが、約束が3つ増えました。「真っ先にお伺いして」「ブログでご紹介させて」「発売されたら」。しかも「楽しみにしております」「待ち遠しい」と、相手が期待して待つ言葉が重なっています。ハルさんが決めていないことばかりです。
約束が増えています。
・「真っ先にお伺いして」「ブログでご紹介させて」は、私が決めていません
・「楽しみにしております」「待ち遠しい」も、相手が期待して待つ言葉になります
・感嘆符は使わないでください
うれしい気持ちは、実際に食べた感想で伝えてください。
これから何をするかの話は入れないでください。
「ご連絡ありがとうございます。栗どら焼き、おいしくいただきました。皮のふんわりした感じと、あんの甘さ控えめなところが好きです。新しい商品のお話もありがとうございます。近くに寄ることがあれば、のぞいてみたいと思います。」
「これから何をするかの話は入れないで」と伝えるのが要点です。感想は事実なので、いくら書いても約束になりません。
小さな練習
返信を書きかけて止まっているメッセージがあれば、それを使ってください。なければ、過去に送った返信を1つ選びます。
依頼文2をコピーして、返信文の部分を自分のものに入れ替えて送ります。約束が入っていないか点検してもらってください。1つでも見つかったら、依頼文3で外し方を教えてもらいます。それでこの回は完了です。
次へ進む目安
返信を送る前に「約束していないか」を確かめられたら十分です。ここで作った返信の型は、第37回でプロンプト集に入れておくと、次から呼び出すだけで使えます。
次は「SNS投稿を宣伝っぽくしすぎない」へ進みます。今度は、不特定多数が読む短い文章です。