AIが直した文章は読みやすいのに、なぜか自分が書いたものに見えない。この回では、ハルさんが「AIっぽさ」の正体を見つけて、自分の文体に戻します。
この回で作るもの
自分の文体メモと、戻した文章
過去の自分の文章から特徴を7項目ほど取り出した「文体メモ」を作り、それを条件にしてAIの文章を書き直します。文体メモは、これ以降の依頼文に毎回貼って使います。
今回の例
ハルさんが、直してもらった文章に違和感を持っている
ハルさんは、喫茶店の記事の一段落をAIに整えてもらいました。読みやすさは上がりました。それなのに、公開ボタンを押す気になれません。自分の記事に並べたとき、そこだけ他人の文章に見えるのです。
- 自分で書いた元の文
- 「駅から歩いて7分くらい。看板が小さいので、一度通り過ぎました。中に入ると席は6つだけで、豆を挽く音がずっと聞こえています。ブレンドを頼みました。酸味は抑えられていて、わたしには飲みやすかったです。」
- AIが整えた文
- 「駅から徒歩約7分。小さな看板が目印の隠れ家的な喫茶店です。店内はわずか6席。豆を挽く音が心地よく響く空間で、ブレンドコーヒーをいただきました。程よく抑えられた酸味が、優しく口の中に広がります。」
- 止まっている理由
- 直された文の方が上手に見えるので、何が嫌なのか自分でも説明できない
AIっぽさは、好みではなく特徴で見分けられる
ハルさんの違和感は気のせいではありません。2つの文を並べると、変わった点を具体的に指摘できます。
- 体言止めが増える — 「駅から徒歩約7分。」。元の文は「歩いて7分くらい」と話し言葉でした
- 失敗や迷いが消える — 「一度通り過ぎました」が「小さな看板が目印」に変わりました。書き手の体験が、店の紹介に置き換わっています
- まとめ言葉が入る — 「隠れ家的な」「心地よく響く空間」。ハルさんが書いていない評価です
- 丁寧語が一段上がる — 「頼みました」が「いただきました」に。距離が遠くなります
- 主語が消える — 「わたしには飲みやすかった」という個人の感想が、「優しく口の中に広がります」という一般論になりました
- 数字の言い方が硬くなる — 「席は6つだけ」が「わずか6席」に
- 語尾がそろいすぎる — 全文が同じリズムになり、抑揚がなくなります
共通しているのは、書き手の個人的な部分が、読みやすさと引き換えに削られていることです。上手になった代わりに、誰が書いてもよい文章になりました。
AIに任せる部分と自分で見る部分
AIに頼みやすい
- 自分の過去の文章から特徴を取り出す
- 2つの文を比べて、変わった箇所を挙げる
- 文体メモの条件に沿って書き直す
- 直しすぎた箇所を戻す
自分で見る
- その特徴を残したいか、直したいかの選択
- 読みやすさと自分らしさのどちらを優先するか
- 最後の語尾を決める
癖の中には、直したほうが読みやすいものもあります。目的は元通りにすることではなく、どこを残すか自分で選べる状態になることです。
進め方
- 自分で書いた過去の文章を2本用意する
- AIに、その2本から文体の特徴を挙げてもらう
- 残す特徴と直す特徴を自分で選び、文体メモにする
- 文体メモを条件にして、AIの文章を書き直してもらう
- 最後の語尾だけ自分の手で決める
そのまま使える依頼文
1. 2つの文を比べて、変わった箇所を出す
私が書いた文と、それをAIが整えた文を並べます。
2つを比べて、変わった箇所をすべて挙げてください。
どちらが良いかの評価はしないでください。変化の指摘だけお願いします。
【私が書いた文】
駅から歩いて7分くらい。看板が小さいので、一度通り過ぎました。
中に入ると席は6つだけで、豆を挽く音がずっと聞こえています。
ブレンドを頼みました。酸味は抑えられていて、わたしには飲みやすかったです。
【AIが整えた文】
駅から徒歩約7分。小さな看板が目印の隠れ家的な喫茶店です。
店内はわずか6席。豆を挽く音が心地よく響く空間で、ブレンドコーヒーをいただきました。
程よく抑えられた酸味が、優しく口の中に広がります。
出力例
- 「歩いて7分くらい」→「徒歩約7分」。話し言葉が書き言葉になりました
- 「一度通り過ぎました」が削除され、「隠れ家的な喫茶店です」という紹介に置き換わりました
- 「席は6つだけ」→「わずか6席」。数の言い方が硬くなりました
- 「ずっと聞こえています」→「心地よく響く空間で」。事実の描写が評価に変わりました
- 「頼みました」→「いただきました」。敬語の度合いが上がりました
- 「わたしには飲みやすかったです」→「優しく口の中に広がります」。個人の感想が一般的な描写になり、主語が消えました
2. 過去の文章から自分の特徴を取り出す
私が過去に書いた文章を2本貼ります。
この2本に共通する書き方の特徴を、7個まで挙げてください。
上手かどうかではなく、私の癖として挙げてください。
【1本目】
朝いちばんで行ったのに、もう3人並んでいました。
みたらしは1本90円。焦げ目がしっかりついていて、
たれは思ったより甘くないです。歩きながら食べました。
【2本目】
開店の10時に合わせて行ったのに、目当ての豆大福はもう並んでいませんでした。
かわりに買った草餅は1個140円。
よもぎの香りが強くて、これはこれで満足です。
出力例
- 失敗や思い通りにいかなかったことを、最初に書くことが多い
- 時刻と価格を具体的な数字で入れる
- 「〜です」「〜ました」を混ぜ、体言止めはほとんど使わない
- 「思ったより」「これはこれで」など、事前の予想と結果を比べる言い方をする
- 味を褒める言葉より、甘さや厚さなど程度の言葉で説明する
- 店を評価せず、自分がどうしたかで文を終える
- 1文が短い。40字前後で区切っている
3. 文体メモを条件にして書き直してもらう
次の文を、私の文体メモに合わせて書き直してください。
【文体メモ】
・体言止めを使わない
・失敗や思い通りにいかなかったことは削らない
・時刻と価格は具体的な数字で書く
・店を評価せず、自分がどうしたかで終える
・「隠れ家的」「心地よい」など、まとめの評価語を使わない
・1文は40字前後
・感想には「わたしには」を付けて、個人の感想だと分かるようにする
【書き直す文】
駅から徒歩約7分。小さな看板が目印の隠れ家的な喫茶店です。
店内はわずか6席。豆を挽く音が心地よく響く空間で、ブレンドコーヒーをいただきました。
程よく抑えられた酸味が、優しく口の中に広がります。
出力例
「駅から歩いて7分ほどでした。看板が小さくて、一度通り過ぎています。中に入ると席は6つだけです。豆を挽く音がずっと聞こえていました。ブレンドを頼みました。酸味は抑えられていて、わたしには飲みやすかったです。」
体言止めをやめ、通り過ぎた場面を戻しました。「隠れ家的」「心地よく響く」は削り、最後は自分の感想で終えています。
4. 残す癖と直す癖を仕分ける
先ほど挙げてもらった私の癖7個について、
「残したほうが読み手に伝わるもの」と
「直したほうが読みやすくなるもの」に分けてください。
分けた理由も一行ずつ書いてください。
どちらにするかは私が決めるので、両方の見方を書いてください。
出力例
残したほうが伝わるもの
- 失敗を最初に書く — 読み手が同じ失敗を避けられます。あなたの記事の入り口にもなっています
- 時刻と価格の数字 — 読み手が実際に行くときに役立ちます
- 自分がどうしたかで終える — 店を評価しない姿勢が一貫しています
直すと読みやすくなるもの
- 1文40字の統一 — 短い文が続くと単調に感じられます。時々長い文を混ぜると読みやすくなります
- 「思ったより」の多用 — 同じ記事に3回以上出ると、比較の基準が曖昧に見えます
残す3つは、あなたの記事の個性そのものです。直す2つは、個性を保ったまま調整できます。
5. AIっぽさが戻っていないか点検する
次の文章を点検してください。
私の文体メモから外れている箇所だけを挙げてください。
外れていなければ「外れなし」と答えてください。書き直しは不要です。
【文体メモ】
体言止めを使わない / 失敗を削らない / 数字は具体的に /
店を評価しない / まとめの評価語を使わない / 感想には「わたしには」を付ける
【点検する文章】
駅から歩いて7分ほどでした。看板が小さくて、一度通り過ぎています。
中に入ると席は6つだけです。落ち着いた雰囲気の名店でした。
ブレンドを頼みました。酸味は抑えられていて、飲みやすかったです。
出力例
外れている箇所は2つです。
- 「落ち着いた雰囲気の名店でした」 — まとめの評価語にあたります。また、店を評価しない方針からも外れています
- 「飲みやすかったです」 — 「わたしには」が付いていません。個人の感想だと分かる形になっていません
それ以外の箇所は、文体メモに沿っています。
出力をレビューする
- 自分の記事の他の段落と並べて、浮いていないか
- 失敗や迷いが削られていないか
- 自分が言っていない評価が足されていないか
- 声に出して読んで、自分の話し方に近いか
- 読みやすさのために直した部分を、自分で選んだと言えるか
返事が使いにくかったときの直し方
「駅から歩いて7分ほどでした。看板が小さく、一度通り過ぎてしまったのも、今となっては良い思い出です。中に入ると席は6つだけ。豆を挽く音が優しく響きます。ブレンドを頼みました。酸味は控えめで、じんわりと心に染みる一杯でした。」
一見、文体メモを守っているように見えます。しかし「良い思い出です」「じんわりと心に染みる」はハルさんが書いていない感情ですし、「席は6つだけ。」は体言止めです。失敗を残す指示を、失敗を美談にする方向に受け取られています。
3か所、文体メモから外れています。
・「良い思い出です」は、私が書いていない感情です。削ってください
・「じんわりと心に染みる」も同じです。私の感想は「わたしには飲みやすかった」だけです
・「席は6つだけ。」が体言止めになっています
失敗は、良い話にまとめず、起きたことだけ書いてください。
この3点を直して、もう一度お願いします。
「駅から歩いて7分ほどでした。看板が小さくて、一度通り過ぎています。中に入ると席は6つだけです。豆を挽く音がずっと聞こえていました。ブレンドを頼みました。酸味は抑えられていて、わたしには飲みやすかったです。」
「失敗を削らない」という指示だけでは、失敗を美談にされることがあります。「起きたことだけ書く」まで足すと安定します。この一文も文体メモに追記しておきます。
小さな練習
自分が過去に書いた文章を2本選び、依頼文2を送ってください。ブログでも、SNSでも、友人へのメッセージでもかまいません。友人へのメッセージを使う場合は、相手の名前、場所、個人的な事情が分かる部分を伏せてから貼ります。
出てきた特徴7個を見て、残したいものに丸を付けます。丸を付けたものだけを並べたものが、あなたの文体メモです。テキストファイルに保存して、次回以降の依頼文の先頭に貼って使ってください。
次へ進む目安
「なんとなく違う」と感じたときに、どこがどう違うかを1つでも言葉にできたなら十分です。ここで作った文体メモは、第20回の公開前チェック、第35回のタイトル作り、第37回のプロンプト集で毎回使います。
次は「公開前の文章チェックをする」へ進みます。自分の声に戻した文章を、公開してよい状態まで確かめます。